テストマーケティングとしてのクラウドファンディング。2016年の国内プロジェクトの成功例と失敗例から考える

By on 2016-11-09

2016年も終盤に差しかかったが、今年も多くのIoTデバイスがクラウドファンディングに登場した。本誌でも、さまざまなIoTデバイスのプロジェクトを紹介したが、昨年と比べると、とりわけ国内のクラウドファンディングサイトの利用が一気に増えた印象だ。

 

また、国内クラウドファンディングサイトのプロジェクトを見てみると、目標金額をあえて低く抑え、資金調達ではなくテストマーケティングを目的として、クラウドファンディングを利用している例も多いように思える。

 

そこで、今年本誌で取り上げた国内クラウドファンディングの各プロジェクトの成功・失敗を振り返りながら、クラウドファンディングがテストマーケティングとして有効なのかについて見ていきたい。あわせて、成功または失敗したプロジェクトの傾向、成功するクラウドファンディングの設計のしかたについても考えてみたい。

 

目標金額は低く抑えられる傾向に

まずは、クラウドファンディングの目標金額に着目して、2つのプロジェクトを見てみよう。

 

IoTスタートアップのStroboは、窓に取り付けることで戸締まりをスマートフォンで確認できるスマート窓センサー「leafee mag」のプロジェクトをMakuakeにて実施。目標金額は30万円と控えめだ。

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製品1個あたりの支援額(単価)が1000円程度と安価なこともあり、結果的に318人から支援され、目標金額の3倍近い86万8620円を集めることに成功した。この300人以上からの支援というのは、クラウドファンディングの成功を測る上でのひとつの目安だ。

 

一方、残念ながらクラウドファンディングに失敗した例としては、ピクスーがMotionGalleryで実施した、ペット向けのカメラ付きスマート給餌器「Pixoo」のプロジェクトがある。同プロジェクトの目標金額は500万円。

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多くのメディアでも取り上げられたものの、ペット向けのニッチな製品であり、単価が2万円程度と高めなこともあってか、最終的な支援者は174人、支援金額は436万4500円と目標金額に届かなかった。なお、同プロジェクトはAll or Nothing方式のため、支援者への課金は行われず、製品の量産も見送られることになった。

 

この2つのプロジェクトを比べてみると、Pixooのほうがより多くの金額を集めたものの、クラウドファンディングには失敗し、仕切り直しを余儀なくされている。これに対して、leafee magは、集まった金額は100万円に満たないが、達成率約300%とクラウドファンディングとしては大成功という結果になった。

 

両プロジェクトの場合、もちろん単価の違いもあるが、目標金額が30万円と500万円というように大きく異なっている。それぞれの目標金額からは、leafee magがテストマーケティングを、Pixooが量産にあたっての資金調達を目的としていることが推測される。

 

しかし、Pixooの例を見る限り、現在の国内クラウドファンディングでは、資金調達を目的とするのは、なかなか厳しい状況だ。一方、テストマーケティングとしては、国内クラウドファンディングは有効といえる。目標金額を抑えてニーズを探りながら、クラウドファンディングを成功させ、話題を集めるという手法は、今後もトレンドになるだろう。

 

3000人以上の支援を集めるプロジェクトも

それでは、2016年の国内クラウドファンディングの成功例をさらに掘り下げてみたい。

 

まず、すでに一定の認知度があるBluetooth紛失防止タグのカテゴリーでは、2つのデバイスが国内クラウドファンディングに登場した。

 

仏Wistikiは、MotionGalleryにて「Wistiki」3種のクラウドファンディングを実施。単価は3900円、目標金額は100万円と控えめだったが、4736人の支援により、3982万6000円の資金を集めることに成功。第2弾のプロジェクトも実施され、合計で5422人から4680万6800円を集めた。

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また、スマートロックの「Qrio Smart Lock」でも知られるQrioは、第2弾デバイスとなる「Qrio Smart Tag」のプロジェクトをMakuakeで実施。目標金額はこちらも100万円で、単価は2800円〜3240円。結果、3180人の支援により、2480万20円を集めることに成功した。

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両デバイスは、機能としてはそれほど目新しいものはないものの、単価が4000円以下と手頃なこともあって、達成率2000%以上と大成功を収めた。また、ニーズがあり、マスに受ける製品カテゴリーであれば、国内クラウドファンディングでも3000人以上の支援を集めるポテンシャルがあることがわかる。

 

また、Nature JapanがMakuakeで実施したスマートリモコン「Nature Remo」のプロジェクトも、既存製品カテゴリーの成功例のひとつだ。同デバイスは、米KickStarterで1000万円以上の資金調達に成功した後に、鳴り物入りで国内クラウドファンディングに登場。その話題性もあって、目標金額100万円、単価約1万円のところ、452人からの支援で、610万4100円の資金を集めることに成功している。

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これに対して、新規製品カテゴリーの成功例といえるのが、博報堂がMakuakeで実施したIoTスピーカー「Pechat」のプロジェクトだ。同デバイスは、ぬいぐるみに取り付けて、スマートフォンからの操作でおしゃべりをさせることができるボタン型スピーカー。

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単価は3740円〜4740円、目標金額は50万円のところ、執筆時現在(11月8日)、2316人からの支援により、目標金額の25倍以上となる1300万6770円を集めている。要因としては、博報堂の会社としての知名度やプロモーション力に加え、コンセプトのわかりやすさが挙げられるだろう。

 

また、Blincamが開発した眼鏡装着型ウェアラブルカメラ「BLINCAM」も、新規製品カテゴリーの成功例といえる。Makuakeで実施されたプロジェクトでは、目標金額が100万円、単価は1万6000円〜1万8000円と比較的高めにもかかわらず、1323人からの支援で2643万8000円の資金を集めた。

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ウィンクで撮影できるという操作性の新しさや、クラウドファンディングの開始前から多くのメディアに取り上げられ、注目を集めていたことが、成功の要因だと考えられる。

 

クラウドファンディングの成功には、潜在的なニーズや機能の新規性、プロモーション力、デザイン性など、さまざまな要因が複合的に関与する。その上で、ここで取り上げた成功例のプロジェクトに共通するのが、目標金額を100万円または50万円としていることであり、テストマーケティングの要素が強いという点だ。開発や量産化の資金をある程度確保した上で、クラウドファンディングに臨んでいることがうかがえる。

 

結果的には、3つのプロジェクトが2000万円以上の資金を集めたほか、目標金額を抑えたことで、4つのプロジェクトが達成率2000%以上というインパクトのある成果を残している。

 

また、単価(製品1個あたりの支援額)に着目してみると、いずれも1万円台以下であり、3000人以上の支援を集めたプロジェクトは5000円以下となっていることがわかる。

 

失敗したプロジェクトの傾向は?

一方で、クラウドファンディングに失敗したプロジェクトも存在する。

 

台湾のスタートアップ HAZ Digitalは、電動で開閉できるスマート折りたたみ傘「HAZ」のプロジェクトをKibidangoにて実施。目標金額は90万円だったが、最終的な支援者は15人、調達額は17万3400円にとどまった。

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電動で開閉できることに加え、Bluetoothでスマートフォンと連携し、置き忘れを防止できるというユニークな同デバイスは、米Indiegogoでは約250万円を調達していた。しかし、最安モデルではBluetooth機能が省かれるなど、コンセプトがあいまいだったことや、傘としては高価な9800円〜12000円という単価が、日本のユーザーには受け入れられなかったようだ。

 

また、パルコのクラウドファンディングサイト BOOSTERでは、INNOCREATEが女性向けネットワークカメラ「Clever Dog Smart Camera」のプロジェクトを実施した。目標金額は80万円、単価は5235円〜6980円となっていたが、支援者は72人、調達額は43万1364円で目標金額に届かなかった。

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ネットワークカメラ自体は、一定のニーズのある製品カテゴリーであり、同デバイスは女性向けのポップなデザインを特徴としていたが、ターゲットをおもに1人暮らしの女性に絞ったことが、支援を集めきれなかった要因と推測される。また、そのターゲット設定からクラウドファンディングサイトとしてBOOSTERを選定したと思われるが、同サイトとIoTデバイスの親和性はあまり高くないようだ。

 

目標金額は達成したものの、多くの支援者を集める点では失敗した例もある。ハタプロが+Styleで実施したスマートジュエリー「Luminous craft」のプロジェクトがそれだ。目標金額は20万円、単価は4410円〜となっていたが、100台セットを購入する大口の支援者が現れたことで、調達額は27万8640円と目標を達成。ただし、最終的な支援者はわずか7人にとどまった。

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女性をターゲットに絞ったデバイスということもあり、今回のプロジェクトでは、一般的な消費者からは支持を得られなかったようだ。しかし、大手百貨店のバイヤーからの問合せやメーカーとの協業の申し出などの反響があったとのことで、今後の展開には期待が持てる結果となった。テストマーケティングとしては、ある意味、成功したといえるかもしれない。

 

ここで取り上げた3つの例からは、ターゲットを女性に絞ったIoTデバイスの国内クラウドファンディングは、現時点ではやや厳しいということが読み取れる。これは、IoTニュースを取り上げている本誌の読者の75%以上が男性ということからも裏付けられるだろう。

 

また、クラウドファンディングサイトとIoTデバイスの親和性、サイト自体の集客力やプロモーション力も、プロジェクトの成否に大きく関わってくるといえる。

 

クラウドファンディングの特殊な成功例

2016年に国内クラウドファンディングを実施したプロジェクトの中でも、特殊な成功例といえるのが、ニッポン放送とCerevo、グッドスマイルカンパニーが共同開発したスマホ連携ラジオ「Hint」がCAMPFIREで実施したプロジェクトだ。

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同デバイスは、FM補完放送に対応したFMラジオで、Bluetoothスピーカーとしても利用可能。また、同局が将来的に放送を検討しているデータ情報を受け取ることで、Eddystone技術によりURLをスマートフォンに通知する機能も備える。

 

かなり変わったデバイスであり、一見、ニーズやターゲットも不明だが、単価は1万5000円〜3万円、目標金額も1300万円と強気の設定でプロジェクトを実施。当初はあまり支援が集まらず、目標達成は難しいかと思われたが、動作音に声優のボイスを採用した特別モデルを用意したり、発案者である同局の吉田尚記アナウンサーがラジオやポッドキャストなど他メディアで発信を行ったことなどにより、最終的に1250人の支援者から3045万5500円の資金を集めることに成功した。

 

この結果は、ニッチなデバイスであり、目標金額や単価が高くても、発信力やプロモーション力があれば、クラウドファンディングに成功できるということを示す数少ない例だ。また、プロダクト自体よりも、個人やプロジェクトを応援するというムードが濃いCAMPFIREを選んだことも、今回のプロジェクトにはマッチしていたといえる。

 

しかし、今回のプロジェクトにより、Hintを欲しいと思うユーザーには、デバイスが行き渡ったという印象だ。今後、一般販売が行われたとしても、同程度以上に売れることは期待できないだろう。その点、テストマーケティングとしては、参考にならないかもしれない。

 

クラウドファンディングをどのように設計すべきか?

ここまで、2016年に実施された国内クラウドファンディングの成功例、失敗例を見てきた。それぞれの傾向を踏まえ、今後、国内クラウドファンディングを実施する際に、プロジェクトをどのように設計したらよいかを考えてみたい。

 

まず、成功の目安となるのが、300人以上の支援を集めることだ。より多くの支援者を集めるに越したことはないが、国内クラウドファンディングでは、1000人以上の支援を集めることは簡単ではない。まずは300人の支援を目指し、それらの先行ユーザーからのフィードバックを得て、改良や一般販売につなげるのが得策といえる。

 

次に、支援を集めやすい単価(製品1個あたりの支援額)としては、1万円台以下となっている。クラウドファンディングに登場するIoTデバイスには、よくも悪くも期待と不安が入り混じり、単価が2万円以上になると抵抗が大きくなる。逆に5000円以下になると財布の紐が緩み、3000人程度の支援を得られる可能性が出てくる傾向もある。

 

目標金額は、単価と目標にする支援者数の兼ね合いになるが、実際に成功しているプロジェクトでは100万円以下としているものが多く、達成しやすい額といえる。目標金額の達成が必ずしも本当の成功を意味するわけではないが、少なくとも失敗の烙印を避けるためには、目標金額をあまり高く設定しすぎないことが肝心だ。

 

また、今年人気となったプロジェクトでは、1日あるいは数時間で目標金額を達成したものも多い。一気に支援を集めることで急上昇ランキングの上位となり、クラウドファンディングサイトのトップページに掲載され、さらに注目されるといったこともあるため、プロモーションとしては、プロジェクトの開始前、開始直後のスタートダッシュが重要になるだろう。

 

WistikiやHintといった例外もあるが、今年、成功したIoTデバイスのプロジェクトでは、クラウドファンディングサイトとしてMakuakeを利用する例が目立った。Makuakeで実施されたプロジェクトでは、いずれも目標金額を100万円以下としており、クラウドファンディングをテストマーケティングの手法として考えている感がある。

 

300人の支援者が成功の目安となる国内クラウドファンディングでは、開発や量産化の資金調達を目的とするのは難しく、今後もテストマーケティングとしての利用が中心となるだろう。とはいえ、これは日本市場だけの話であり、世界をねらうなら海外に打って出る手もある。

 

たとえば、Nature RemoはMakuakeでの支援者は452人だが、KickStarterでは1086人の支援を集めており、海外のクラウドファンディングサイトは2倍あるいはそれ以上のポテンシャルがある。ただし、Qrio Smart LockがIndiegogoで苦戦しているように、日本向けに開発したデバイスを海外に出すのは厳しいかもしれない。

 

IoTデバイスを世に送り出す企業にとっては、最初から海外をねらうか、あくまで日本市場をねらうかが選択の別れ道となるだろう。